視覚デザインにおける
余白の知覚に関する研究とその意義

A Study on "Yohaku" in Visual Design: Its Perception, Function and Significance

大杖裕喜山田博之(筑波大学)

背景

余白は、可読性向上や視線誘導など、意図的に使用される空白であり、適切な余白が洗練された印象を与えるとされる1,2。しかし、その定義は明確ではない。一般に「何も描かれていない白い部分」とされているが、東洋絵画では「あえて描かないことによる空間の表現」とされるなど、文化的・芸術的文脈が内在している3

先行研究

パッケージデザイン分野では、余白比率の増加が「ラグジュアリー知覚」や「高級感・審美性」をもたらすことが報告されている4,5。また、認知心理学分野では、村田らが人が知覚する余白は画像的に定義される余白とは必ずしも一致せず、オブジェクトの配置条件や空間的関係性が影響することを示した6

研究の位置付け

  • 対象メディアの限定性: 村田らの研究6は東洋絵画と円刺激を対象としており、多様な視覚表現を含む現代のメディアへの展開は行われていない。
  • 余白特性の不明確さ: 高級感や審美性との関連は指摘されているが、それらがどのような特性(配置、形状など)に起因するのかは明らかになっていない。
  • 測定手法の未確立: 余白の印象評価に特化した測定指標は整備されておらず、既存の視覚デザイン評価指標の援用に留まっている。

本研究では、感覚的・感性的に知覚される余白領域の抽出を試み、余白領域とデザイン評価との関係について探索的な検討を進めている。

現在の取り組み ― 余白の抽出手法の検討 ―

描線ベースの余白抽出ツール

マウスやトラックパッドで、画面上のポスターデザイン画像に自由に描線を引くことで領域を指定する手法である。Webツールとして開発した。参加者はドラッグ&ドロップで領域を選択し、選択部分は赤色(半透明)で塗りつぶされる。右クリックで選択領域の削除も可能である。

実験終了後、余白領域のPNG画像、描線のみのPNG画像、および面積データのCSVファイルが取得される。本手法は直感的な操作性を持つ一方、参加者間で描画スタイルや領域分割の粒度にばらつきが生じやすく、操作デバイスも結果に影響するという課題があった。

グリッドベースの余白抽出ツール

画像を20×20の固定グリッドに分割し、セル単位で領域を選択する手法である。iPadアプリとして開発し、指タッチをズーム・パン操作、スタイラスペンを選択操作に割り当てた。ペンモードと消しゴムモードを切り替え可能で、ドラッグによる連続選択・消去に対応している。

エクスポート機能では、選択領域の画像とグリッド座標や選択セル数を含むJSONデータが出力される。本手法では、描線ベースツールの描画粒度のばらつきや境界の曖昧さを解消し、統一された選択単位により、参加者間での結果を容易に比較することを目指した。

現在、余白量の異なる8点のグレースケール画像を用いた検証実験を実施中である。この実験により、グリッドベース手法による抽出精度の向上、操作の安定性、参加者間での結果の一貫性を評価し、知覚される余白をより正確に測定する手法の確立に取り組んでいる。

同定手法に留まらず、今後はデザイン経験といった属性も制御した実験デザインも検討したい。将来的には、デザイン支援システムへの応用や、余白を考慮した自動レイアウト生成アルゴリズムの開発など、デザイン実践への貢献が見込まれる。さらに、本手法は他の視覚メディア(Webデザイン、UIデザインなど)における余白研究にも展開可能であり、視覚デザイン全般における余白の役割の理解を深める基盤となることを目指している。

参考文献

  1. ingectar-e:けっきょく、よはく。余白を活かしたデザインレイアウトの本,ソシム,2018.
  2. Robin Williams(著),米谷テツヤ(監・訳),小原司(監・訳),吉川典秀(訳):ノンデザイナーズ・デザインブック[第4版],2016.
  3. 呉治珪:視覚デザインにおける余白の研究,日本大学大学院芸術学研究科博士論文,2000.
  4. 外川拓:パッケージ・デザインに対する知覚と評価―広告研究に基づく余白の効果に関する検討―,商学研究科紀要,74,pp.77-89,2012.
  5. 間瀬友惠,井関紗代,北神慎司:パッケージデザインにおける余白の美学―余白とロゴタイプの違いが購買者の評価に及ぼす影響―,日本認知心理学会第17回大会,2019.
  6. 村田晶子,高橋成子,大谷芳夫:知覚的余白の空間特性 場の理論に基づく解析,認知心理学研究,14,1,pp.21-34,2016.